医療費の増大が課題になっている。公的医療保険の給付のあり方について見直しの議論が進むなか、認定NPO法人日本アレルギー友の会理事長の武川篤之さんは、「患者の実態をふまえずに議論が進むことに、強い懸念を抱いている」と話す。
20年近く、患者会活動にかかわっています。アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の患者は、症状の悪化と軽快を繰り返すなかで「一生、このつらい症状が続くのか」と将来への不安を抱えています。自己肯定感をもてず、学校や就職に影響を及ぼしている人も少なくありません。
そんななか近年、生物学的製剤と呼ばれる、非常に効果の高い薬が登場しました。生活の質が大きく改善し、社会活動への参画や安定した就労につながっていると実感しています。ただ、とても高額で家計への負担が大きく、「いつまでこの治療を続けられるのか」と、多くの患者が不安を抱きながら治療しています。
薬の使用を中止すれば、改善していた症状が重症化するおそれがあります。とくに所得が低い、若い世代の患者は生活費を切り詰めながら治療をしている人が多く、高額療養費の見直しは深刻な影響が考えられます。
「標準治療」に必要なOTC類似薬、維持を
(市販薬と成分や効果が似た)OTC類似薬についても、たとえば子どものアトピー性皮膚炎では、症状をコントロールし再び悪化させないために、定期的に保湿剤を使い続ける必要があり、成長とともに使用量も増えます。保険適用から外れると、生活に余裕があるとは言えない子育て世代などに長期にわたり、重い負担を強いることになります。
医療費の増大が課題なのは確かです。一方で、この間の議論を見ながら、「本当に患者の実態をわかったうえでの議論なのだろうか」と不安を覚えます。美容のために保湿剤を処方してもらうといったことは確かに問題で、限りある医療保険財政への影響をひとりひとりがもっと厳しく自覚する必要があるでしょう。
でも、そうした極めて「特殊な例」を引き合いに、安易に「保険から外せばいい」という声をあげる人たちは、患者がどんな思いで日々、その薬を使い続けているか理解しているでしょうか。自分勝手な「患者観」で判断することの危うさを感じます。そうした声に乗じるかのように患者の声を十分に聞かないまま、医療費抑制にかじを切ろうとする政治には憤りを覚えます。
国民皆保険制度は、経済的理由で医療を受けられない人を減らすためのしくみです。何を保険でカバーするかを考える際には、科学的根拠にもとづいた「標準治療」をベースにすべきです。OTC類似薬については、学会のガイドラインに定めるような「標準治療」で使われる薬剤、保湿剤は保険適用から外すべきでないと考えます。
本当に医療を必要としているのは誰なのか。それを知るためにも、患者や市民の側も学会のガイドラインや標準治療について、もっと理解を深める必要があると思います。専門的な内容でもあり、理解するのは大変かもしれません。そうしたときに1人で悩むのではなく、患者会にアクセスして情報を集めるなど、主体的に動くことも重要ではないかと思います。
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たけかわ・あつゆき 1949年生まれ。気管支喘息の当事者として、患者会活動にかかわる。2017年から現職。厚生労働省アレルギー疾患対策推進協議会委員などを務め、現在、東京都アレルギー疾患対策検討委員会委員。
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